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馬伝染性貧血

馬伝染性貧血(うまでんせんせいひんけつ)は馬に発生する病気のひとつである。伝貧(でんぴん)ともいう。家畜伝染病予防法に基づく家畜伝染病の一つ。


◆原因と症状

本疾病の原因となる馬伝染性貧血ウイルスはレトロウイルス科レンチウイルス属に分類されるRNAウイルスで、エンベロープを保有する。

ウイルスを含む血液がアブ、サシバエなどの吸血昆虫により伝搬されることで馬類のみ感染する。その他に母子の胎盤感染、乳汁感染も成立する。また、過去に競馬場や牧場などでしばしば見られた競走馬の集団発生ではウイルスに汚染された注射器を使用した事が原因とされるものもある。

本疾病は重度の貧血を伴う高熱が特徴で、高熱が持続して衰弱死亡する急性型、発熱の繰り返しによりやがては衰弱~死亡に至る亜急性型、発熱を繰り返すもののやがて徐々に軽度となり健康馬と見分けができなくなる慢性型に大別される。


◆歴史と対処

本疾病は日本国内では家畜伝染病予防法において、伝染性海綿状脳症、豚コレラ、狂犬病など共に家畜伝染病に指定されているものである。日本では明治16年に本病と思われる疾病の初報告があったが、当時は確実な診断をする方法が無く、昭和30年代は年間百頭以上の馬が感染馬として摘発、処分されていた。

馬伝染性貧血ウイルスは抗原変異を容易に起こすため、ワクチンの開発は事実上不可能である。この事もあり、感染した馬については治療をする方法が存在せず、検査で陽性の診断確定後、当該患蓄を速やかに処分する事だけが感染拡大を阻止する唯一の予防法である。

日本国内で飼育されているウマやロバなどの馬類の動物は、定期的にこの病気についての検査を受けることが義務付けられている。感染が確認された場合には蔓延を防ぐ為、法令や規則に基づき競走馬や繁殖馬としての登録の抹消と殺処分命令が出される。当該患蓄の所有者・管理者はこれを受け入れ、速やかに処分を実施しなければならない。家畜伝染病予防法第17条に基づく殺処分命令の権限は都道府県知事が持つ。

この伝貧感染馬への殺処分命令については、当該馬がたとえいかなる歴史的名馬や優秀繁殖馬であったとしても免れ得ない。歴代の日本ダービー馬でもクモハタ、マツミドリがこの疾病により殺処分命令を受け命を落している(他にイエリユウの死因にも伝貧関連説がある)。他方、1970年に日高地区が襲われた伝貧騒動では、とある牧場主が感染した所有馬に出された殺処分命令に抵抗したため、迅速な処分が必要な事もあり、北海道警察の機動隊が出動して殺処分を実施するという騒ぎも発生した(ちなみに、この馬は殺処分後に解剖されたところ、やはり感染馬特有の病変をきたしていた)。

馬類以外には感染しない病気で研究も遅々として進まなかったが、1965年に東京競馬場で本疾病の集団感染騒動が発生したのを契機として日本中央競馬会などを中心に1960年代後半に大規模な研究が進められ、確定診断法として血清診断法、寒天ゲル内沈降試験という技術が確立された。それ以降は予防と清浄化に努め、現在の日本国内では存在しない病気となっている。ただし、近年でも抗体陽性馬はまれに見つかる事がある。

この診断法が確立される以前には、1952年冬の京都競馬場の伝貧騒動でクモワカ(繁殖名:丘高。桜花賞馬ワカクモの母、天皇賞馬テンポイントの祖母)に対する誤診断による殺処分命令などという出来事も発生し、これは繁殖馬としてのクモワカとその子供たちの馬名登録を巡って訴訟問題にまで至った(詳細はワカクモの項を参照)。

かつては世界中に蔓延した馬疾病であるが、清浄化の進展により流行地域は減少しつつある。日本国内でも中央競馬では1978年、国内全体でも1993年に岩手県で農用馬2頭が摘発されたものが現在は最後で、これ以降、本疾病の感染による摘発は発生していない。

しかし、ブラジル、アルゼンチン、パラグアイなど南米地域にはまだ多くの感染馬がいるとされる。また、日本とはサラブレッドやショーホースなどの往来が多い欧米やオーストラリアでは現在でもしばしば感染馬が確認されており、この疾病の侵入に対する警戒は依然継続する必要がある。


◆問題点

治療方法がなく、感染馬を処分する事しか対処方法がない病気である為、競馬場やトレーニングセンターなどでの集団大量感染が発生すれば、競走馬の大量殺処分などの事態に至る事もある。これらは競馬開催の長期の開催不能にも直結する為、競馬主催者にとっては経営に重大な悪影響を及ぼす要因ともなりうる。

現在は中央競馬と地方競馬の垣根を超えた全国規模での交流が盛んとなり、競走馬の輸送も頻繁に行われているため、ひとたび発生すればそれがたちまち全国に拡散してしまう危険も指摘されている。

また、日本のサラブレッド馬産や育成は日高地区への集中と依存が極めて大きい為、特に日高地区での伝貧の集団発生は日本の競馬産業全体に極めて深刻なダメージを与えるものとして、この病気は久しく発生の無い現在でも競馬や馬産の関係者には常に恐れられている。
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2006年11月06日 トラックバック(-) コメント(-)

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